カテゴリー: ストーリー

  • 第5話 見積の基準を作りました。

    時間チャージを計算したことで、会社が損益分岐するために必要な時間単価が4,446円だと分かりました。

    では、その時間チャージを使って見積を作るとどうなるのか。

    私は、まずいくつかのリピート品で試算してみることにしました。

    結果、多くの製品で、これまでの販売価格より高い金額になりました。

    会社として赤字を避けるためには4,446円必要でしたが、その価格では受注が難しい製品が少なくありませんでした。

    さらに、いくつかの製品について試算を重ねていくと、おおよそ3,600円以下まで時間チャージを下げなければ、これまでの価格帯と同等にはならないことも分かってきました。

    ここで、会社として初めて明確な目標ができました。

    時間チャージを3,600円以下にする。

    時間チャージは会社の経費や年間の稼働時間から計算しています。

    つまり、時間チャージを下げるには、

    • 経費を削減する。
    • 生産性を上げる。
    • 有効な稼働時間を増やす。

    そういった改善を積み重ねるしかありません。

    それまでは、経費を削減して支出を減らすことばかり考えていました。

    しかし、この目標ができてからは、生産性を上げることも時間チャージを下げることにつながると考えるようになりました。

    それからは、社内でさまざまな改善活動に取り組みました。

    その結果、1年半ほどかけて時間チャージは目標としていた3,600円以下まで下げることができました。

    そこで次に取り組んだのが、営業担当全員が同じ基準で見積を作れる仕組みづくりでした。

    見積書作成ツールを作り、時間チャージを3,600円で固定しました。

    さらに、価格を調整する場合は、利益係数だけを変更する仕組みにしました。

    すると、見積ごとの利益額が明確になりました。

    お客様から値引きを求められた場合でも、

    「どこまでなら利益が残るのか。」

    「どこから赤字になるのか。」

    を数字で判断できるようになったのです。

    それまでは、どこまで値引きしてよいのかも明確ではありませんでした。

    経験や感覚に頼る場面も少なくありませんでした。

    見積に共通の基準ができたことで、会社全体で同じ考え方で価格を決められるようになりました。

    さらに、この3,600円という時間チャージは、見積担当者だけの数字ではありませんでした。

    私は製作に携わる従業員にも、この数字を伝えました。

    「誰かが製作に1時間を使うと、その製品の価格は3,600円上がる。」

    もちろん、実際の製品価格は材料費や加工内容によって決まります。

    それでも、時間にはこれだけの価値があることを、みんなが意識するようになりました。

    すると、

    「この作業は本当にこんなに時間をかける必要があるのか。」

    「もっと早くできる方法はないか。」

    そんな会話が少しずつ増えていきました。

    この数字があることで、時間をかけすぎなのかどうかを考える、一つの目安になったのです。

  • 第4話 会社には「1時間の値段」がありませんでした。

    経費の見直しを一つずつ進めた結果、会社の収益は少しずつ改善していきました。

    2014年度は約1,750万円の経常赤字だった会社は、翌2015年度には約1,560万円の黒字へと転換します。

    もちろん、外注費だけが理由ではありません。

    固定費の削減や発注ルールの見直しなど、小さな改善を積み重ねた結果でした。

    一方で、支出を減らすだけでは会社は成長できません。

    利益を増やすためには、売上をどう作るかも考える必要があります。

    そこで次に取り組んだのが、見積りの見直しでした。


    製造業では、製品の見積価格を、

    製品価格 =(材料費+外注費+労務費+設備費やその他経費)×利益係数

    という考え方で算出することが多いと思います。

    ところが、当時の社内には見積り方法についての決まりがありませんでした。

    見積り担当者によって、計算の仕方が違っていたのです。

    工程を細かく分け、それぞれの加工時間を積み上げて見積りを作る几帳面な人もいました。

    一方で、

    「この手の製品なら、1トン20万円くらい。」

    と、製品の重量から大まかな価格を決める人もいました。

    どちらも、それまでの経験をもとにした見積りです。

    ただ、その方法では、誰が担当するかによって見積金額が変わってしまいます。

    会社として仕事を受ける以上、誰が見積りをしても、ある程度価格がそろう方法が必要でした。

    そこで、社内の見積り方法を統一することにしました。

    基本となる考え方は、

    製品価格 =(材料費+外注費+労務費+設備費やその他経費)×利益係数

    です。

    材料費や外注費は、材料屋さんや協力会社に見積りを依頼すれば分かります。

    問題は、労務費でした。

    労務費は、

    加工時間 × 時間チャージ

    で計算します。

    では、その時間チャージをいくらにすればいいのか。

    社内に基準はありませんでした。

    そこで、会社の経費や年間の労働時間などから逆算し、会社を維持するために必要な時間チャージを算出することにしました。

    その結果、算出された時間チャージは4,446円でした。


    しかし、ここで新たな疑問が生まれます。

    この時間チャージで見積りを作ったとき、本当に仕事は受注できるのだろうか。

    会社を維持するためには4,446円が必要。

    でも、お客様がその金額を受け入れてくれなければ仕事はなくなります。

    つまり、

    利益が出る時間チャージと、受注できる時間チャージは、必ずしも同じではありません。

    この差をどう埋めるか。

    それが、次の課題でした。


    時間チャージの具体的な算出方法については、実践編②で詳しく紹介したいと思います。

  • 第3話 赤字なのに、仕事を外へ出していました。

    第2話で書いたように、決算書から様々な経費を調べ始めました。

    その中でも、一番経費としての額が多かったのが外注費です。

    当時の外注費は年間8,700万円から1億500万円ほど。

    私たちは金属製品を製造していますが、すべての工程を自社でできるわけではありません。特殊な加工や、自社設備では対応できない加工は、協力会社へ依頼します。

    そのため、取引先が数十社あること自体は、ごく普通のことです。

    しかし、発注状況を調べてみると、ある異変に気付きました。

    ある1社に対して、毎月500万円ほどの発注が続いていたのです。

    さらに調べると、その会社は私たちと同じような仕事をしている同業者でした。

    一方、社内では毎日ほぼ定時退社。

    時には、

    「今日は仕事がありません。」

    そんな声まで聞こえてきます。

    仕事が足りないと言われる現場。

    それなのに、自社でも十分対応できる加工を、毎月何百万円も外へ発注していたのです。

    私には、その状況がどうしても理解できませんでした。

    さらに調査を進めると、その会社が、発注を担当していた社員と個人的に親しい関係にある会社だと分かりました。

    理由を尋ねると、返ってきたのは、

    「向こうの会社が仕事がなくて困っているから。」

    という言葉でした。

    私は、

    「でも、うちの会社は赤字ですよ。」

    と伝えました。

    すると返ってきたのは、

    「そんなことはどうでもいい。」

    という一言でした。

    言葉を失いました。

    もちろん、この社員一人だけの問題ではありません。

    本当に驚いたのは、こうした発注が長年見過ごされ、誰も疑問を持たなかった会社の仕組みそのものでした。

    この状況を変えるため、まずは「自社でできる仕事は、自社でやる」という当たり前のルールを徹底しました。

    その結果、現場の残業は以前より増えました。

    しかし、それまで年間8,700万円から1億500万円あった外注費は、4,000万円から5,300万円程度まで減少しました。

    金額が大きかっただけに、一気には変えられません。

    発注先との調整や社内体制の見直しを進めながら、是正には一年以上かかりました。

    それでも、この改善だけで会社の利益は大きく変わりました。

    私はこの出来事以来、「みんなで力を合わせて会社を立て直す」みたいなドラマを見る目が少し変わりました。

    「従業員は会社のことを考えて行動してくれる善人。」

    そんな前提で話が進むのは、現実ではなかなかありません。

    少し寂しい話ですが、それが私の経験です。

  • 第2話 私が最初にやったこと

    会社を立て直そうと思ったとき、多くの人はまず売上を増やそうと考えるかもしれません。

    実際、当時の会社でもそうでした。

    「もっと仕事を取ってこないと。」

    そんな言葉をよく耳にしました。

    でも私は違う考えでした。

    まず取り組んだのは、売上ではなく経費でした。

    理由は単純です。

    売上は相手があって初めて増えるものです。

    景気にも左右されます。

    受注できるかどうかは、自分たちだけでは決められません。

    一方で、経費は違います。

    会社がその気になれば、今日からでも変えられます。

    だから私は、まず会社のお金の使い方を全部見直そうと考えました。


    会社のお金の使い方を見直し始めると、思っていた以上に見直せるものがありました。

    契約内容を一つひとつ確認し、本当に必要なのかを考え直しました。

    いくつか例を挙げます。

    一つは、低圧電力の契約です。

    何十年も前に廃却した設備の契約が、そのまま残っていました。

    設備はもう存在しないにもかかわらず、毎月約7万6,000円の基本料金だけを払い続けていたのです。

    契約内容を見直し、不要な契約を解約しました。


    もう一つは、保険です。

    当時は、バブル期に契約した役員を被保険者とする生命保険が数多く残っていました。

    保険料は毎月約62万円。

    契約内容を一つひとつ確認し、本当に必要なものだけを残すことにしました。

    その結果、毎月約56万円の保険料を削減することができました。

    さらに、解約によって受け取った返戻金は、そのまま借入金の返済に充てました。

    会社にとって必要な保障は残しながら、固定費を減らし、借入金も減らす。

    一つの見直しで、二つの効果が得られたことになります。


    もちろん、見直したのはこの二つだけではありません。

    駐車場の契約、業務用車両の台数、加盟している団体の会費、IT化による紙代の削減など、一つひとつ見直していきました。

    当時の私は、100万円の経費だけを見ていたわけではありません。

    100円でも無駄だと思えば見直しました。

    「100円くらいならいい。」

    その積み重ねが、会社の利益を少しずつ削っていくと考えていたからです。

    経費は金額の大小ではありません。

    無駄を当たり前にしないこと。

    それが会社の体質を変える第一歩だと思っていました。

    実践①「私が無駄な費用を見つけた方法」


    経費削減というと、我慢することのように聞こえるかもしれません。

    でも私にとっては違いました。

    会社に残るお金を増やすための活動です。

    利益が残れば、社員に還元できます。

    設備投資もできます。

    新しいことにも挑戦できます。

    だから経費削減は目的ではありません。

    会社を強くするための手段でした。


    おわりに

    今振り返っても、会社を立て直す最初の一歩を経費削減から始めた判断は間違っていなかったと思います。

    ただ、今振り返ると、それら以上に会社の利益へ大きな影響を与えていたものがありました。

    それが、外注費でした。


    次回予告

    決算書を見返すと、私が最も違和感を覚えた科目がありました。

    なぜ外注費がこれほど多いのか。

    その理由を調べ始めたことが、会社の利益構造を見直すきっかけになりました。

  • 第1話 町工場の決算書を見て、現場へ行くのをやめました。

    2015年、私は地元へ戻り、祖父が創業した町工場に入りました。

    それまでは、某メーカーで工業製品の開発に携わっていました。

    当初は現場から仕事を覚えるつもりでした。

    役員の息子が、いきなり経営に口を出すのは違うと思っていたからです。

    しかし、その考えは会社の決算書を見た瞬間に変わりました。


    入社して間もなく会社の決算書を見る機会がありました。

    当時の会社は3期連続の赤字を計上していました。

    3期合計の赤字額は9,000万円以上。

    年間売上は3億円台。

    借入金は約4億円。

    純資産も決して余裕があるとは言えない状況でした。

    その数字を見た瞬間、

    「現場を覚えている時間はない」

    そう思いました。


    しかし、その危機感を持っていたのは私だけでした。

    当時の役員はほとんどが親族でした。

    現場経験は豊富でしたが、会社全体の数字や決算内容を把握している人は社長を含めてだれひとりとしていませんでした。

    経常利益という言葉を知らない人もいました。

    「何十年も続いてきた会社だから、そう簡単には潰れない。」

    そんな空気が会社にはありました。

    だから私は、会社を変えるためにやるべきことがあると思いました。

    会社の現状を、全員で理解することです。


    そこで、毎週役員全員が集まり、業績について話し合う会議を始めました。

    私は経営を学んできた人間ではありません。

    決算書の読み方も分かりませんでした。

    本を読み、インターネットで調べ、自分なりに理解したことを、できるだけ分かりやすく説明しました。

    役員は高齢者ばかり。

    話は何度も世間話に脱線する。

    また会社の数字に戻す。

    その繰り返しでした。

    一度説明しただけでは伝わりません。

    同じ話を何度も繰り返しました。

    だから毎回議事録を作り、全員に配りました。

    記録を残すためではありません。

    決めたことを、その場限りで終わらせないためです。


    当時、会社では「まず売上を増やそう」という考え方が当たり前でした。

    もちろん、売上は大切です。

    利益の原資でもあります。

    でも私は最初から、会社を強くするのは売上ではなく、利益を残すことだと考えていました。

    問題は、その考え方をどう伝えるかでした。

    数字を説明するだけでは、人の考え方は変わりません。

    会社の置かれている現状を理解し、「このままではまずい」と同じ危機感を持ってもらうこと。

    それが、一番時間のかかった仕事だったように思います。


    今振り返ると、会社が変わり始めたのは、利益が増えた日でも、経費が減った日でもありません。

    会社を見る目が変わり始めた日だったように思います。


    おわりに

    このブログでは、町工場を経営する中で経験したことを、できるだけ事実に基づいて書いていこうと思います。

    「これが正解です。」

    そんなことを書くつもりはありません。

    会社にはそれぞれ事情があります。

    業種も規模も違います。

    だから私が書くのは正解ではなく、

    「当時、私はなぜそう判断したのか。」

    という記録です。

    もし、この経験が家業を継いだ人や、中小企業で経営に悩む人にとって、一つの判断材料になれば嬉しく思います。


    次回予告

    売上を増やす前に、私が最初に取り組んだのは「経費削減」でした。